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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10654号 判決

原告

森谷弘二

右訴訟代理人

服部正敬

服部訓子

右訴訟復代理人

村本道夫

被告

小嶋久夫

右訴訟代理人

播磨源二

大久保誠太郎

右輔佐人弁理士

澤木誠一

主文

一  原告と被告との間において原告が別紙目録記載の特許を受ける権利を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨の判決

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の経緯により、別紙目録記載に係る発明(以下「本件発明」という。)を完成し、これにつき特許を受ける権利(以下「本件権利」という。)を取得した。

すなわち、原告は、円筒型の混合装置の開発、研究を行つていたところ、はじめはステンレス製や塩化ビニール製の一対のエレメントを用いて製作を試みていた。しかし、所要の精度を得ることができなかつたため、エレメントの素材を塩化ビニールからプラスチックに変え、一個のエレメントを二分割する方法を試みたところ、精度の高い成型品を得ることができた。右のとおり、本件発明は、原告の創意、工夫に基づいて完成したものである。

2  原告は、昭和五七年一月一〇日ころ、被告に対して、本件発明につき、特許出願手続を委任したところ、被告は、右出願に先立つて、自らを発明者、出願人として、特許出願をし、原告が本件権利を有することを争つている。

よつて、原告は被告に対して、原告が本件権利を有することの確認を求める。

二  請求の原因に対する被告の認否

1  請求の原因1の事実は否認する。

本件発明の発明者は、被告であり、被告が本件権利を取得したものである。

すなわち、被告は、昭和五四年ころから混合装置の開発に携わり、既知の文献及び特許情報等を調査した結果、昭和五六年七月ころ本件発明を完成させた。もつとも、被告は、原告が代表者である東ビン工業株式会社に対して、プラスチックエレメントの試作を依頼したことはあるが、そうだからといつて原告が本件発明を完成させたことにはならず、本件発明の発明者はあくまで被告である。

2  同2については認める。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一〈証拠〉を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。

1  原告は、プラスチック製品の製造、販売等を行う会社を経営していたが、公害防止装置の研究、開発等を目的とする都市科学研究所からの勧めもあつて、昭和五五年ころから混合装置の製作を試みることとなつた。右混合装置とは、円筒形管内にこれを分割するような螺旋状の翼を複数設け、一方から流入された異種の液体が右螺旋翼によつて、混合されるというものである。原告は、当初、半円筒形を旋回した形状のものを成型し、これを二個張り合わせることによつて、混合装置の一素子を作製しようとした。しかしながら、ステンレス、塩化ビニール、ガラス等種々の材質を使用して成型を試みたけれど、成型品の精度が得られず、成功は覚つかなかつた。

ところが、原告は、昭和五六年暮ころプラスチツクを射出成型する方法により、中空の円筒形管と螺旋翼を一体に製作することを着想し、更に、射出成型用金型を成型物から分離できるように、螺旋翼の旋回角度を九〇度とすることとして試作したところ、従来と異なり、精度の高い混合装置の素子を作製することができた。なお、原告は、右混合装置開発のために、約金一二〇〇万円もの資金を投じた。

2  一方、被告は、都市科学研究所の所員として、混合装置等の製品開発に従事していたところ、同所の所長を通じて、原告を知るところとなり、原告の前記混合装置の開発に協力することとなつた。そして、国内、国外の特許公報等を調査して得た知識を原告に教示する等していた。

3  ところで、原告は、前記混合装置の製作に成功した時点では、特許出願の意思を有していなかつたが、被告の慫慂もあつて、本件発明につき特許出願を行う旨決意し、明細書の作成及び出願手続を被告に依頼し、手数料として金三〇万円を支払つた。被告は、右依頼の趣旨に従つて、昭和五七年一月一八日、発明者、出願人を原告、発明の名称をプラスチックエレメントの製造方法として、特許出願(昭五八―一二二八三二号)をした。ところが、被告は、右に先立つ、同年同月一六日、自らを発明者、出願人とし、発明の名称、特許請求の範囲、発明の詳細な説明及び図面を全く同じくする特許出願(昭和五八―一二二八三一号)をしていた。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に照すならば、本件発明は、原告が、二年余の年月と、金一二〇〇万円もの費用を掛け、自らの創意、工夫と実験を重ねた結果完成したものであるから、その発明者は原告であると解するのが相当である。

被告は、本件発明を完成させたのは被告であつて、原告は、単に被告の指示に従つて、混合装置の製作を担当したにすぎない旨主張し、同様の趣旨を本人尋問において供述するところである。

しかしながら、確かに、原告が、本件発明を完成するにあたつては、被告の協力が大きな源動力となつたことは否定できないけれども、前記認定のとおり、被告は、原告に対して、特許出願をするように勧め、かつ自らが原告のため代行して、原告を発明者、出願人として、特許出願明細書を作成し、出願手続を行つている事実に照すならば、被告は、本件発明につき自らの協力があつたにせよ、その発明者が原告であるとすることに異存はない旨承認していたものと解するのが素直な見方であり、そうだとすると、原告が単に混合装置の試作を行つたにすぎないとする被告の主張は採用できない。なお、被告は、本件発明につき、自らを発明者、出願人として、特許出願をしているが、右事実は、前記認定を左右するものではない。

二以下のとおりであつて、本件権利は、原告が有することになる。

被告が本件権利を争つていることは当事者間に争いがない。

したがつて、原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官元木 伸 裁判官飯村敏明 裁判官高林 龍)

目  録

発明の名称 プラスチックエレメントの製造法

出 願 日 昭和五七年一月一六日

出願番号 昭和五七年特願第四〇二三号

公 開 日 昭和五八年七月二一日

公開番号 昭和五八年特許出願公開第一二二八三一号

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